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福岡地方裁判所久留米支部 昭和48年(ワ)69号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告

「被告は原告に対し金一四三万円および内金一二九万円に対する昭和四七年一二月八日から、内金一四万円に対する昭和四八年五月二一日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告

主文と同旨の判決ならびに被告敗訴の場合には仮執行免脱の宣言。

第二、原告の請求原因

一、原告は、昭和四六年一〇月三日久留米市津福今町四〇四の七七地先において訴外紫田勝幸保有で訴外紫田栄二運転の普通貨物自動車に衝突され、右側胸部および左側腹部擦過挫傷右七、八、九、一〇助骨々折等の重傷を受けた。

二、右訴外紫田勝幸は右自動車に対して訴外日産火災海上保険株式会社に自動車損害賠償責任保険に加入していたため、原告は右事故による負傷により前記訴外会社に対し自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償額請求権が発生した。

三、そこで原告は昭和四七年一〇月五日被告に対し右訴外会社に対する前記損害賠償額の請求および受領に関する一切の権限を委任し、被告はこれを承諾し、右委任に基づき同年一一月四日右訴外会社に対し右賠償額の請求をなし、右訴外会社は被告の右請求に基づき損害賠償額を金二四九万円と査定し、同年一二月七日被告に対し原告の前記事故による損害賠償額として金二四九万円を支払つた。

四、そこで受任者である被告は委任者である原告に対し直ちに右受領金二四九万円を引渡すべき法律上の義務を負うたにかかわらず、被告は原告に対し同年一二月二三日内金一二〇万円を引渡したのみで、残金一二九万円の引渡をしない。よつて原告は被告に対し右残金一二九万円の支払を求める権利がある。

五、被告は原告からの度重なる請求にもかかわらず、右一二九万円を横領したまゝ原告の請求に応じないので、原告は権利実現のため止むなく訴訟によることとし、そのため原告は原告訴訟代理人に訴訟遂行を委任し、報酬として金一四万円を支払う契約をしてすでに支払つた。この金員は被告の右不法行為に基づくものであつて、右不法行為と相当因果関係あり、被告において支払う義務がある。

六、以上により原告は被告に対し合計金一四三万円の請求権があるから、右金員および内金一二九万円に対しては被告が受領した翌日である昭和四七年一二月八日から、内金一四万円に対しては本訴状送達の翌日である昭和四八年五月二一日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、請求原因に対する被告の答弁および主張

一、請求原因一、二項の事実は認める。

二、請求原因三項のうち被告が訴外日産火災海上保険株式会社から原告主張の事故による損害賠償額として金二四九万円を受領した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告は昭和四七年一〇月か一一月ごろ西岡総合保険有限会社を経営している訴外西岡正から同人が訴外野田九州男から委任を受けていた原告が訴外野田九州男に委任していた原告の自動車損害賠償保障法に基づく損害賠償金の請求および受領に関する一切の権限を行使することを委任され、右西岡からの委任に基づいて前記訴外会社から金二四九万円の支払いを受けたものである。

三、被告は昭和四七年一二月一一日前記訴外西岡正に前記受領の金二四九万円を交付し、同訴外人は同月二四日右金二四九万円を訴外野田九州男に交付した。

四、よつて被告は原告の本訴請求に応じる義務はない。

第四、被告の主張に対する原告の反論

一、原告は本件保険金の請求および受領について訴外野田九州男に対して白紙委任状を交付したのであつて、右白紙委任状を使用して権限を行使した被告は原告から委任を受けたものである。

二、被告が訴外西岡に、同訴外人が訴外野田九州男にそれぞれ金二四九万円を交付した事実は不知。

第五、証拠(省略)

理由

一、原告が原告主張の事故により負傷し、訴外日産火災海上保険株式会社から自動車損害賠償責任保険の損害賠償額の支払いを受ける権利を取得したこと、および被告が前記訴外会社から原告の前記事故に基づく損害賠償額として金二四九万円を受領したことはいずれも当事者間に争いがない。

二、原告と被告間に右損害賠償額の請求に関する委任契約が存在していたかどうかについて検討するに、成立に争いのない甲第三ないし第八号証、乙第一号証と証人西岡正および証人森山ヒトヱの各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、

(一)  原告は原告主張の事故により、負傷したため、右損害に対する自賠責保険からの給付を保険会社に請求し、その損害賠償額を受領することを原告の姪の夫である訴外野田九州男に委任した。

(二)  訴外野田九州男は訴外西岡正が西岡相互保険有限会社という名称で経営していた保険代理店業の営業担当として勤務していたことから、自己が原告から委任された前記保険請求事務を訴外西岡正に委任した。訴外野田は原告の印鑑証明書(甲第四号証)を添付して原告名義の委任状(甲第三号証の受任者氏名欄の記載のないもの)を訴外西岡正に交付した。

(三)  訴外西岡正は自賠責保険契約者である日産火災海上保険株式会社に対し、右野田の委任に基づいて原告の損害賠償額請求手続をなすに当り、自己が受任者として書類上に名前をあらわすことが支障をきたすことをおもんばかり、かねて親交ある被告に対し、請求者として名前を使用することの諒解を求め、かねて訴外野田から交付を受けていた原告名義の委任状(甲第三号証)の空白であつた受任者氏名欄に被告の氏名を記入したほか、被告名義の請求書類(甲第五ないし第七号証)を作成し前記日産火災海上保険株式会社福岡支店に提出した。

(四)  右請求書類に基づき、右訴外会社は原告に対する損害賠償額金二四九万円を福岡銀行博多駅前支店の被告名義の普通預金口座に振込み、被告は右振込金員を預金から払戻を受けた上昭和四七年一二月一一日ごろ金二四九万円を訴外西岡正に交付し、同訴外人は同月二四日右全額を訴外野田九州男に交付した。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。右の事実によれば、被告は訴外西岡正との間の契約により保険会社から原告に対して支払わるべき損害賠償額を受領する行為の委任を受けたものであると解するのが相当であり、甲第三号証(委任状)の成立の経過に徴すると、同号証の存在のみをもつてしては原被告間の委任契約の存在を認めることはできず、その他原告の全立証をもつてするも原告と被告間に委任契約が成立した事実を認めることはできない。そうすると原被告間の委任契約の存在を前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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